鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ株式会社発行)では、毎月旬なゲスト選手が語る「鈴木健.txtの場外乱闘」が連載されています。現在発売中の2025年3月号では、第128回ゲストとしてSareee選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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※鈴木健.txt氏 X:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt

Sareee(フリーランス)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

私の人生、プロレスでできているので
やらなきゃいけないものになっています

Sareee(フリーランス)

全女の頃が羨ましい。私もその時代で
プロレスをやってみたかった

Sareee選手は小さい頃からプロレスラーになりたいという夢を持ち続け、現在のステータスを築きました。未来を想像していた頃と比べて、今の自分はどのように映っていますか。

Sareee 私はプロレスラーになりたいと思ったのが小学1年の時だったんですけど、その時点で強いレスラーになることをずっと追い求めてやってきたんです。体は大きい方ではないんですけど…それこそ、デビューした時は45kgしかなかったぐらいで、それでも強いプロレスラーになるって言い続けてきたから、周りから見たら説得力もなければ実際に強くもなかったと思うんですけど、でも諦めない気持ちだけでここまで来たなって感じですね。

その時に描いていた強さに、今は近づけていると思いますか。

Sareee 女子プロ界のトップに立つという思いでやってきた結果、昨年の女子プロ大賞を受賞することができたことで、理想の自分に近づいてきているなと思えました。

強くなると、言葉に出し続けたのは自分自身をその方向へ持っていくための暗示のようなものでもあったんでしょうか。

Sareee 入ったのが14歳だったのでそこまでは考えていなくて、単純に強くなりたいという願望を口にしていました。自分を奮い立たせるためとか、多分そこまでは考えていなかったと思います。

小学1年生で強さにあこがれを抱くというのも、なかなかないですよね。その年だとかわいいものやきれいなもの、カッコいいものに価値を見いだすものです。

Sareee そうですよね。アイドル的なレスラーに全然興味がなくて、本当にデカくて強い選手、常にベルトを懸けてエースとして闘っているような選手にしか、もう目がいかなかった。それがなぜなのかはわからないですけど…ほかに、強さへあこがれるような要素も身の周りにはなかったんです。だから、女子プロレスを初めて見た時にそういう気持ちになって、そこからずっと今まで変わっていないですね。

小学1年でなりたいと思った職業に就けているということは、ほかになりたいと思ったものはなかった?

Sareee 幼稚園の時は花屋さんになりたいとかいくつかあったのかもしれないですけど、プロレスラーになりたいと思ってからは一本でした。

その、目を引いた強いレスラーというのは?

Sareee 元気美佐恵さんです。父がアントニオ猪木さんのファンで、たまたまおばあちゃんの家へ遊びにいった時、近くにあった東京キネマ倶楽部で女子プロレスをやっているというのでフラッと入ったんです。それがNEO女子プロレスで、美佐恵さんを見た時に強くてカッコいいなって。

小学生だと、プロレスの話をしても友達とは合わないですよね。

Sareee 周りにプロレスの話はそんなにしなかったですね。何人かの友達は誘って一緒にいったんですけど、ハマらなかった。

その時点で、大きくなったらプロレスラーになるとは友達にも言っていたんですか。

Sareee 言っていました。「怖い~」という反応でしたね。私、中学卒業でこの世界に入ったんですけど、練習を始めたのが中学2年だったので、みんなが受験勉強をやっている中で一人だけ体中をあざだらけにしていて心配されましたね。「なんでこんなことをやるの?」「もうやめて!」って友達にすごく言われました。当初のデビュー戦が中学校の卒業式のあとだったんですけど、東日本大震災があって(3月21日から)4月に延期されたんです。そこに友達のみんなが応援に来てくれたのは嬉しかったですね。今も来てくれます。

中学卒業でプロレスラーになるという選択は、親御さんには受け入れてもらえたんですか。

Sareee 「高校にはいってほしい」とはすごく言われました。ただ私が小さい時から言っていたので、そこは諦めじゃないですけど応援してくれましたね。 やるなとは一度も言われませんでした。父とはプロレスの話をよくしていたんで、喜んでくれたとは思うんですけど。今も応援してくれているので。

小さい頃になりたいと思ったものになれて、それを10年以上も続けることができています。

Sareee 私の人生、プロレスでできているのでそれが当たり前というか、プロレスはやらなきゃいけないものになっています。100%プロレスに注いでいられる。それは好きだからだし、そこまで懸けてこなかったらここにはいないと思います。

ファンとして見ていた頃にはわからなかったのが、実際にプレイヤーを経験してみてわかった魅力は何になりますか。

Sareee プロレスは格闘技でもあると思うんですけど、格闘技は負けたら終わりというところがあるじゃないですか。プロレスは負けてからどう立ち上がるか、その人の生きざまが見えるんだなって思いました。その中ですべてをさらけ出すことができて、そうすることによって自分の闘いを通じて何かしらのメッセージを見てくださる皆さんに伝えられる。そこが魅力です。プロレスラーにならなかったら、こんなにも自分が応援されることってなかなかないと思うんです。

長くプロレスを続ける上で価値観や姿勢について大きな影響を与えられた選手というと誰になりますか。

Sareee 師匠は伊藤薫さんなので、プロレスラーとしてのあり方から、受け身も全部教わったんですけど、変わるきっかけになったのは栗原あゆみさんから裏投げを伝授してもらったのが大きかったです。そこから勝てる試合も増えてきて、ライバルとの闘いに勝てたりベルトを巻けるようになったりしたので。

裏投げは現在の代表的な技として使っている思い入れのある技です。これは栗原選手の方から使ってみないかと言われたんですか、それとも自分から教えてくださいと申し出たのか。

Sareee 栗原さんが引退する前に伝授したいって言ってくださって…嬉しかったです。あの技は“つながっている”技だけに(大向美智子から栗原が受け継ぎ、そしてSareeeへ)、 まだ若手だった頃の自分がそんなことを言ってもらえるなんて思っていなかった。嬉しかったのと同時に、改めて頑張らなきゃなって思えたのがあの時でした。

それまでは自分の方向性も定まっていなかった?

Sareee そうですね、勝つための必殺技がなかったので、それを得られたことによってこれでいいんだっていうのはつかめました。だから、それまでうまくいかなかった頃はプロレスが好きっていうことだけでやっていた気がします。ジャガー横田さん井上京子さん、堀田祐美子さんといった先輩方からはプロレスは闘いだということを教わりました。プロレスラーは、強くないとダメなんだっていうことですね。

そういった先輩方の強さは全日本女子プロレス時代に叩き込まれたわけですが、あの頃の女子プロレスがどういったものかを後追いで聞いたり映像で見たりすることで、現在の女子プロレスの土壌との違いを理解するわけですよね。

Sareee 私はその頃が羨ましいと思います。自分もその時代でプロレスをやってみたかったなって。

女子プロレスラーになりたいという子が
もっと増えるような夢ある職業にしたい

とんでもなくエグい時代のプロレスをやってみたかったというのは、すごいです。現在はフリーとして活動を続けています。団体に所属している時とは心構えに変化はありますか。

Sareee 守ってもらえる会社がなければ、全部自分の責任になるので、そこはやっぱり違いますよね。ケガをしたら収入が途絶えるという現実が常にあるというだけでもフリーになったことでの大変さは感じます。ただ自由に動ける分、自分の思うようにできるというのは私に合っていると思っていて。それはプロレスラーになった時点ではまったく思い描いていなかったし、若い頃にそうなっていたら全然できなかったと思うんですよ。でも、今の自分だからそれが可能になった。前回の自主興行で対戦した里村明衣子さん、そして今回の朱里さんと、ありがたいことに自分が形にしたいことが実現できている。

自分がやりたいと思うことは実現させなければ気が済まないタイプですか。

Sareee 気が済まないというよりは、興味があることに対し後悔したくないっていう思いが強いんだと思います。今も、本当にそれだけでやっている感じです。

自主興行ごとに一つひとつのやりたいことを実現させていっている。

Sareee まだまだあるんで。それがある限りは、この形(自主興行)が続いていくと思います。

自主興行以外で言うと、Sareee選手は女子団体以外に上がることも多いです。

Sareee そういうリングこそ初めて見る人が多いじゃないですか。特に男子の団体に出させていただくと私のことも女子プロレスも知らないお客さんがいる。そういう方の中に、女子でもこんなにやるんだ!っていう、いい意味での驚きをしてくれる方が多くて、やっていて気持ちいいです。お祭りプロレス的なイベントに出る時もあるんですけど、プロレスを見にいく前提ではない人たちが立ち止まって見てくれるのも本当に楽しいんで、そういうのもやっていきたいことの一つですよね。

女子プロレスというジャンルを自分自身が背負っている意識は持たれていますか。

Sareee はい、もちろんです。

それはいつぐらいから?

Sareee アメリカ(WWE)へいく前ぐらいですか、顔になりたいって思いました。デビューした時からトップに立ちたいというのはずっと思っていたんで、それは私の中で当たり前の話というか。周りからしたら、そんなの無理だよって思うようなことを常に発言していたんだと思います。だから必死でした。でもやるからには一番を目指したいんで。その一番っていうのが、誰もが認める女子プロの顔だと思っています。その意味でも、去年の女子プロ大賞を獲ったのは大きかったんです。

それを証明する一つの形ですものね。

Sareee ただ、それを継続していくのが一番難しいと思うんですよね。実際、里村戦に負けてしまったので(1・23新宿FACE)上には上がいるな、もっと強くならなきゃいけないなって思いました。

負けたことをいい方向に自分で持っていけそうですね。

Sareee はい。ただ、里村さんは(4月29日に)引退することが決まっているので、これが最後だっていう覚悟を決めてリングに上がりました。

今後、直接対戦する機会がない中で自分の方が上にいけたと思えるような何かが必要になってきます。

Sareee そうなんです。でも、それをなし得たいんです。

次回自主興行で対戦する朱里選手とは13年8ヵ月ぶりの一騎打ちとなります(2011年7月10日、ディアナ横浜ラジアントホール。朱里の勝利)。その存在はずっと頭の中にあったんですか。

Sareee 特にずっとあったわけではないですけど、私は以前からIWGP女子を狙っている中で、女子プロ大賞を獲りながら今年に入ってベルトを2本落としている(マリーゴールド・ワールド王座、BEYOND THE SEAシングル王座)上に、里村さんにも負けて重要な試合で3連敗しているんです。そんな自分には、IWGPにいく(挑戦する)資格はないと思っていて。次に挑戦する時はみんなが認める挑戦者として挑まなければいけないって思うんです。だから、今じゃない。本当は2024年の勢いのままいきたかったけど、そうはなっていない中で何が一番の近道というか、自分自身も納得できて、ファンのみんな、関係者の皆さんが納得できる形でIWGPの選手権試合ができるとこまでいくのかって、スターダムの最強と言われている人に勝つことだと思った時に、朱里選手がすぐ頭に浮かびました。闘って、踏み台にさせてもらおうかなって。

IWGP女子王座に挑戦するための通行手形ですね。

Sareee はい。私が狙いにいくベルトはどれも特別なものだし、それ相応の思いがあるのでそこに大きな差はないんですけど、私はアントニオ猪木さんのことをすごく尊敬していますし、自分が日本へ帰ってきたタイミングで設立されたベルトだったので、最初の時点でこのベルトを狙いたいって思っていたんです。あとは、私が挑戦(2024年4月27日、スターダム横浜アリーナ)した時のチャンピオンが岩谷麻優っていうのも大きかった。

自分がプロレスラーとして活動している時代にIWGPの4文字が入った女子のベルトが創設されるタイミング自体が運命的です。

Sareee 私が一番似合うと思います。もちろん、朱里さんと久しぶりに対戦するのも楽しみですし。それぞれが別々の道で歩いてきて、その上で私の思うスターダムの最強を踏み台にするのがもう、すごい楽しみでワクワクしかないです。相当な激しい死闘になると思うので、それなりの覚悟で臨みたいと思います。

朱里選手は多くの得意技を使いますが、Sareee選手は限られた技にこだわりを持って出しているようにうかがえます。その意味では対照的なお二人です。

Sareee 技数をあまり出さないようにするという意識はないですけど、それは一発一発の技にすごく自信があるということなんだと思います。使ってみたいという技もいくつかあるんですけど、それも大事にしたいので。

今後の自主興行開催のペースとしては?

Sareee そこは自分が闘いたいと思う相手がいたらやるという感じです。

まだみんながあっと驚くようなカードが、ご自身の中にはあると。

Sareee そうですね。まだまだやりたいことはあるので。私は、女子プロレスを若い子たちに見てほしいし、プロレスラーを目指したいと思えるような職業になってほしいと思っていて。数年前よりは増えてきていると思うので、もっともっと増えるような夢ある職業にしていきたいです。自分自身はこれから自分の納得がいくまではプロレスを続けていきます。もっともっとやるべきことがあると思っているので、それをすべてやった時に自分がプロレスに対しどう思っているかは、今の時点ではわからないので。

ジャガー横田さんのように生涯現役という感じで続けるかもしれないですね。

Sareee どういう形に自分がなるのか、まったくわからないぐらい今はやるべきことがたくさんあるということなんだと思います。